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なぜ木工旋盤の業界で急速にCBNが普及しているのか?

2020年4月15日

木工旋盤 ウッドターニング TURNING TALK テキスト CBN

ここ数年海外の木工旋盤業界を見ていると、ひとつ大きく変化したことがあります。

それは、海外のウッドターナーがこぞって「CBN」を導入しだしたことです。

そして、国内でもCBNが徐々に広まりつつあります。

なぜでしょうか?だれもが、CBNを絶賛します。これまでの砥石と何が違うのか?もうこれを知ってしまったら、あなたも刃物を研ぐんだったらCBNしかありえない、って思ってしまいますよ!

そもそもCBNとは何か?

CBNとは ”Cubic Boron Nitride (キュービック ボロン ニトライド)”の頭文字をとった言葉でそのまま「シービーエヌ」と読みます。”Cubic Boron Nitride”とは、立方晶窒化ホウ素(りっぽうしょうちっかほうそ)のことですが、これまた難しい言葉ですね。Wikipedia先生に頼ってみましょう。

立方晶窒化ホウ素 (りっぽうしょうちっかほうそ、cBN)は、窒化ホウ素の分子構造の一つで、窒素とホウ素からなる固形の化合物である。CBN の表記は、しばしば、その粒子を固めた「多結晶CBN」(PCBN) の意味で用いられる。

立方晶窒化ホウ素は、ダイヤモンドの静的高温高圧法に似た方法で合成される。

ダイヤモンドに次ぐ硬さを持つ物質で、またダイヤモンドに比べて熱に強く、鉄との反応性が低いという性質を持つため、その粒子を超高圧下で焼結したものは、硬質材料の切削に留まらず鋼や鋳鉄の超高速切削といった分野でも用いられる。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AB%8B%E6%96%B9%E6%99%B6%E7%AA%92%E5%8C%96%E3%83%9B%E3%82%A6%E7%B4%A0

つまりは、ダイヤモンドのような硬さを持ち、1300度の高温下でも物性が変わらないという性質を持ち、鉄との反応性も低い、だから刃物の研ぎにうってつけ、というわけです。

これまでの砥石はどういったものなのか?

CBNがすごい特性を持っていることはわかりました。では、これまでの砥石ではダメなのか?ここでホワイトアランダムとSGについてみていきましょう。

一般砥石の代表格 ホワイトアランダムとは?

これまでグラインダー砥石といえば、ホワイトアランダムと呼ばれるアルミナ(酸化アルミニウム)の一種を用いたものが一般的でした。このホワイトアランダムは、その粉末を砥石として固めるために、ボンドと充填剤(フィラー)を混ぜ合わせて型に入れ、焼結して固められて砥石となります。このボンドやフィラーに何を使うにもよってその性能も変わるそうです。

このホワイトアランダム(WA)は、使えば使うほどすり減っていくわけですが、それを考慮してもその経済性で広く使われるようになりました。

しかし、安価に製造できるから広く使われた、となれば、性能は決して完璧なものではなかった、ということにもなります。木工旋盤におけるホワイトアランダムの弱点を上げてみましょう。

ホワイトアランダムのデメリット

  • 使用を続けることで形状が変わる(すり減る)
  • 使用を続けることで研げなくなる(砥粒が詰まる)
  • ドレッシング(表面を削り取る)が必要(直径が変わる)
  • 研ぎ治具を使用している場合、直径が変わることで設定を変更しなければいけない
  • 非常に摩擦熱を持ちやすい
  • 完璧にバランスがとれているわけではない

これまで長く使用されてきたホワイトアランダム砥石ですが、こうやって見てみるとデメリットが多い。つまりは、これまでホワイトアランダムしかないからこれを使っていた、ということにもなります。

SG砥石とは何か?

一方で、SGホイールという高性能な砥石もあります。こちらは白色ではなく青い色をした砥石です。このSGは”Seeded Gel"の略で、難しい説明は飛ばしますが、一つの砥粒が数十億個の粒子で構成され( 微細結晶構造 )、それの塊として砥石となっています。ひとつひとつの砥粒の中の数十億個の粒子がミクロの世界で少しずつはがれ脱落 していくため、常にきれいに研げる面(有効切刃)が表に出ていることになります。そのことによってドレッシングの間隔もより長くなり、よって研ぎが効果的に行えるものです。

ホワイトアランダムに比べると高価ですが、より効果的な研ぎが行えるので、SG砥石を好むユーザーも多いのです。

CBNしかありえない!そのわけは?

木工旋盤 ウッドターニング TURNING TALK テキスト CBN

一般砥石であるホワイトアランダム、そしてより研ぎ効率がよいSG砥石この2つが砥石を使っての刃物の研ぎの代表格だったわけですが、それがごそっとCBNにとって代わろうとしている。その理由がイギリスの木工旋盤専門雑誌「Woodturning」に掲載されていました。もちろん、CBNが上で挙げたようなこれまでの砥石のデメリットをすべて克服してくれるというのはもちろんですが、他にも理由があったのです。

近年広く普及し始めたM42ハイス鋼や粉末ハイス(パウダーメタル)などの高性能な金属を使った刃物は、実はこれまでのホワイトアランダムなどの砥石では研げない、というのです。

なんと!
実は私自身も同様な経験をしました。以前、粉末ハイスの刃物を手に入れた私は、ホクホクした気持ちで木工旋盤を楽しんでいました。そしてそろそろ研ぎをいれようと思って、ホワイトアランダム砥石でいつも通りに研ぎました。そしてまた旋盤で加工を始めたのですが、どうも最初の切れ味を感じない。うまく研ぎができていなかったかな、ともう一度研ぎなおしても、同じ。その時の私には何が何だか理解できませんでした。

そしてその不思議な現象の答えが、これだったのです。

詳しく読んでみると、つまりはこういうことです。

M42ハイスや粉末ハイスは、一般的に使用されるM2ハイスより、耐熱性、耐摩耗性、靭性などの性能が大幅に増強されているわけですが、それを実現させているのがコバルト、タングステン、モリブデン、バナジウムなどの添加物です。例えば、M42(JIS規格:SKH59)はM2ハイス(JIS規格:SKH51)に比べてコバルト含有量が多く、高い硬度と耐摩耗性という特性があり、刃物の場合、切れ味が長く続くというわけです。

これらの物質は、製造過程で炭素と結合しカーバイトと呼ばれる物質に変わります。このカーバイトは非常に硬く、一般的な砥石では研ぐことはできません。M42や粉末ハイスはこのカーバイトがより多く含まれることになります。一般的な砥石で研ごうとしても、物理的に研げない、またはカーバイトごとごそっと取れてしまう、ということが起こり、鋭い刃先に研ぎあげることはできないのです。しかも一般的な砥石は砥粒とボンドがまぜられている話はしましたが、実際に"金属を研ぐための砥粒"以外に全く関係のないボンドが存在していることにより、摩擦を生み、熱を持ち、そして時間がかかってしまうのです。

木工旋盤 ウッドターニング TURNING TALK テキスト CBN

一方で、ダイヤモンドのような硬さの砥粒が一面に貼り付けられているCBNはその面に”研ぐため以外の物質”はありません。よって硬いと言われるカーバイトを多く含む金属でも、その硬さをもって短時間で熱も持たせず研ぐことが可能になるのです。

また、CBNはアルミ合金ボディで作られていますが、これまでの砥石と比較にならないほど、バランスよく作られています。よってグラインダー上でスムーズに回転できることにより、より安定した研ぎが実現できるという利点もあります。

M42や粉末ハイスではなく通常のM2ハイスを使用した刃物に対してもメリットしかないわけです。

メリットしかないCBNを今すぐに

このWoodturning誌の記事のまとめには、次のようにありました。

M42ハイスや粉末ハイスの刃物は、急いで購入する必要はない。次の刃物の購入時期になったら検討すればよい。今あなたが持っているM2ハイスの刃物も素晴らしいものだ。
しかし、CBNは、予算が許せば、今すぐにでも購入した方がいい。これまでのM2ハイスの刃物に対してもメリットしか挙げられない。CBNのメリットを最大限に活かすなら600番などの高い番手をおススメする。

とにかくウッドターナーに必要なのは、鋭利な刃先です。鈍った刃先は良いことは一つもない。

現代のウッドターナーであれば、この時代の技術の進歩の恩恵を受けなさい。

Woodturning Issue326 ”The Advantages of Modern Tool Steels and Grinders”

なかなかの煽りよう(笑)ですが、正直なところ本当にCBNは良い事しかありません。より木工旋盤を楽しみたいのであれば、CBNを導入しないという選択肢はないでしょう。

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  • この記事を書いた人

和田 賢治(管理人)

本格木工シェア工房「ツバキラボ 」代表。 木工旋盤歴10年。インストラクター歴8年。2017年に開業した会員制シェア工房「ツバキラボ」では、木工旋盤の教室を開催し、多く会員が木工旋盤を楽しんでいます。また、海外のクオリティの高い木工旋盤の道具も販売しています。より多くの人に、木工旋盤を楽しんでもらいたいと思い、ターニングトークを開設しました。

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